TOEFL対策に効く映画

Jovianは一応、【 英会話講師によるクリティカルな映画・書籍のレビュー 】というサイトも運営していて、まあまあのcinephileである。なので英語学習と映画鑑賞が結構がリンクしている。趣味と職業が重なっているというのは幸せなことなのか、不幸なことなのか。

 

本サイトの狙いに、多くの人にTOEFLに親しんでもらいたい、TOEFLを攻略してもらいたいというものがある。もちろんTOEFLは英語の資格検定試験なので、ハイスコア獲得のためには英語力が不可欠である(映画を観るだけでは英語は上達しない。が、映画鑑賞は英語力アップの助けにはなる。この辺についてはまた別の機会に)。それに次いで重要なのが、背景知識である。TOEFL iBTのReading、Listening、Speaking、Writingのいずれのセクションでもアカデミックな内容の読解と聴解が課せられる。その内容は多岐にわたるが、アメリカの近現代史上での重要な事件や人物に関するものが一定の割合を占める。本記事では、鑑賞することで歴史的なイベントや歴史的な人物について学ぶことができる映画を紹介したい。

 

『 ラスト・オブ・モヒカン 』

原題は The Last of the Mohicans 。モヒカン=あの髪型とたいていの人が思い浮かべられるはず。まさにその部族の物語だ。ストーリーは『 ポカホンタス 』や『 マグニフィセント・セブン 』と共通するところが多い。というよりも、これら二作が『 ラスト・オブ・モヒカン 』の影響を受けていると言うべきか。モヒカン族というネイティブアメリカンの部族と、アメリカを植民地としてもっと開拓したいという思惑を持つイギリス軍、フランス軍の軍人たちとの交流と離反に眼目がある。当時のアメリカの大地のイメージやネイティブアメリカンの生活、そしてヨーロッパ列強が新世界を征服していく過程がつぶさに描かれている。ネイティブアメリカン、そして植民の歴史というのはReadingパートやListeningパートの講義などで頻出のテーマなのである。

また原作者のジェイムズ・フェニモア・クーパーもかなり有名な文学者、小説家だ。アメリカ人の同僚数名は「名前は知っている」「The Last of the Mohicansは有名だ、自分は読んでいないけれど」と言っていた。クーパーの作品の特徴は自然と文明との対立である。自然と調和して生きてきたネイティブアメリカンとヨーロッパ列強の文明的生活の対立という構図こそ、実はTOEFL iBTのパッセージやレクチャーに共通するテーマなのだ。TOEFL受験およびアメリカ留学を考えている人なら、観ておいて損はない。

 

『 ニュートン・ナイト 自由の旗を掲げた男 』

原題は Free State of Jones 。南北戦争時代、北にも南にも属さず、ジョーンズ州に白人と黒人が混成して暮らす、言わば自治州を作ったニュートン・ナイトいう男の物語。南北戦争はある意味で鉄板過ぎるTOEFLネタだが、日本の学習者の大半は読むことだけでしか、この歴史的事象については学んでいないのではないだろうか。黒人奴隷解放に関して今、最も注目を集めている歴史的人物は間違いなくハリエット・タブマンだろう(彼女の映画については、姉妹サイトの記事でレビューしているので、気になる人はリンクをクリックのこと)。彼女の逸話で最も有名なのは、沼地や湿原を通って奴隷を連れ出し、なおかつ追手の賞金稼ぎから逃れた、というものだ。それがどれほど賢く、勇気のある行動なのかは、よく似たシーンを含むこの映画を観ると分かる。

『 ラスト・オブ・モヒカン 』では自然 vs 文明という構図について述べたが、アメリカという近代実験国家の歴史は、対立と融和の繰り返しである、と言えるかもしれない。ネイティブアメリカンと外来移民の対立と融和、北部諸州と南部諸州の対立(経済と奴隷制度)と融和、自然と文明の対立と融和(その一つの結実がヨセミテ国立公園)など、これこそがアメリカ史の通奏低音であると言っても過言ではないだろう。その精神は本作でも触れることができる。

余談だが、同じ黒人と白人の対立と融和の物語として『タイタンズを忘れない(Remember the Titans)』もお勧めできる。この映画は、ひょっとすると映画そのものよりもテーマ曲の方が有名かもしれない。バラック・オバマ元アメリカ合衆国大統領が勝利演説を終えた時に流れたBGMというのが象徴的だった。

 

『 ザ・ダンサー 』

原題は LA DANSEUSE/THE DANCER 。ロイ・フラーという女性ダンサーの物語。アメリカで最も有名なモダンダンサーと言えば、イサドラ・ダンカン、ルース・セント・デニス、マーサ・グラハムだが、彼女らに先行する形でダンスの殻をひとつ破ったのがロイ・フラーだ。熱心にTOEFL対策をしている人なら、Loie FullerというReading PassageOG 4th Editionで読んだことがあるはず。Jovianも受講生から「文章は読めるのですが、フラーの踊りが何だったのかよく分かりません」と言われたことが何度もある。そうした人は是非この映画を鑑賞してみよう。

リーディングやリスニング時には、頭の中で「えーっと、このセンテンスはこんな構造だから・・・」と考えている暇はない。意味を直接、イメージに変換する力が求められる。この映画はかなりの割合がフランス語なので、英語のリスニング演習になるかと言われると微妙なところ。ただ、OGのLOIE FULLERというパッセージがよく分からなかったという人なら、本作を通じて、文章と映像が頭の中できれいにつながることだろう。言葉を言葉として理解するのではなく、イメージとして理解する。TOEFLのリスニングやリーディングでは、そうした瞬時のイメージ力が求められる。

 

『 裸足のイサドラ 』

これも姉妹サイトにレビュー記事がある。イサドラ・ダンカンと言えばモダン・ダンスの祖であり、アメリカではマーサ・グラハムと並んで、かなりの知名度がある。映画を観てもらえれば分かるが、かなり先進的な思想の持ち主で、行動力もある女性だった。アメリカからヨーロッパに渡って、そこからソビエト連邦入りし、ロシア人と結婚するなど、破天荒な人物だった。

 

踊りが文化に占める大きさは、それこそ文化圏ごとに異なる。日本はその割合は世界的にはかなり小さいと思われるが、逆に言えばアメリカやヨーロッパ諸国には踊りの文化的・社会的な地位を大きく引き上げた巨人が存在してきたということである。イサドラ・ダンカンやロイ・フラーは単なるダンサーではなく、踊りを変革したり、踊りと他の分野の芸術や科学と結び付けたという意味で、歴史的な転換点を生み出した人物なのだ。TOEFLはそうした人物や事象を好んで取り上げてきたし、今後もその傾向は続くと思われる。

 

『 アメリア 永遠の翼 』

これも姉妹サイトにレビュー記事あり。彼女は2018年、およそ80年ぶりに彼女と思しき遺体が見つかったということで大きく注目された。また、それ以前からTOEFL iBTおよびTOEFL ITP時代にも何度か出題されてきた人物である。

 

アメリカ社会における女性の地位向上は今でも大きな課題になっていて、昨今でも「ガラスの天井」という言葉が人口に膾炙しているように、女性が昇進していっても、どこかで見えない壁にぶつかってしまうという現実はまだまだ残っている。

 

アメリア・イアハートは飛行機による高度到達記録を樹立したように、女性の地位向上のシンボルとして現代でも語られることが多い。また2020年に女性の参政権獲得100周年を記念するように20ドル札のデザインが、アンドリュー・ジャクソン大統領からハリエット・タブマンに変更されましたが、その20ドル札の文字通りの顔候補としてアメリア・イアハートの名前があったことも付言しておくべきだろう。今後もTOEFLのリーディングやリスニングで出題されると予想される人物の一人である。

 

『 ジェイン・オースティン 秘められた恋 』

これも姉妹サイトにレビュー記事あり。ジェイン・オースティンは一般には『 高慢と偏見 』の作者として最もよく知られているが、そこには当時の英国の貴族社会・階級社会が活写されている。そしてそれは、アメリカがそのまま打破の対象としていたものである。ジェイン・オースティンは1775年生まれと、アメリカ合衆国独立の1776年とほとんど同じである。つまり、彼女の人生はある意味でアメリカ合衆国とシンクロしているとも言える。

 

彼女はOGのIntegrated Writingで取り上げられたこともあり、またTOEFL対策のアプリでも2つほど言及されているのを見たことがある。今でこそ女性小説家の存在は珍しくも何ともないが、それもジェイン・オースティンがあらゆる前例を打破してくれたからに他ならない。TOEFLは文学を扱うことも時々あるが、英米文学を学ぶために留学したい、そのためにTOEFLを受けなければならないという学生は、ジェイン・オースティンの名前と経歴だけでも押さえておこう。

 

『 ハリエット 』

言わずと知れたハリエット・タブマン。アメリカの20ドル札の顔である。本作も姉妹サイトにレビュー記事がある。ハリエット・タブマンおよび「地下鉄道」については、それこそTOEFL ITPやCBTの時代から幾度となく出題されてきた。奴隷解放の闘士の一人であり、南北戦争での北軍勝利の隠れた立役者の一人でもある。

 

「地下鉄道」という組織については『 ニュートン・ナイト 自由の旗を掲げた男 』で描かれるジョーンズ州と同じく、白人と黒人の混成だったことが特筆される。TOEFL好みの対立と融和の象徴的な人物である。

 

彼女について言及したパッセージあるいはリスニング・レクチャーを収録した市販の問題集は、日本だけでもかなりある。2010年以降に出版されたものだけでも、おそらく10冊はあるものと思われる。それだけメジャーな人物であるし、それだけ何度もTOEFLで扱われてきた人物である。実際に20ドル札云々に関係なく、アメリカでは小学生の段階で歴史の時間に必ず学ぶらしい。Jovianもかつてアメリカ人の同僚にIf you don’t know about Harriet Tubman, you’re not American.”と言われたことがある。映画一本、時間にして2時間でTOEFLで再頻出の人物について学べるとなれば、なかなか効率の良い投資ではないだろうか。また、TOEFL云々関係なく、教養として近代アメリカ史は知っておくべきと思う。2020年黄海の映画なので、観るなら今だろう。

 

以上、奇しくも女性に焦点を当てた作品が多くなったが、それもこれも昨今の世相を反映してのことである。忙しい社会人に映画を観なさいとはなかなか言いにくいが、高校生や大学生なら教養・勉強のために観ておくべきと思う(ちなみに関西の某英会話スクールのブログに似たような記事があるが、元はJovianが執筆したものである)。

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